[ほん] 「南京事件」の探求

その実像をもとめて 「南京事件」の探究 (文春新書)

その実像をもとめて 「南京事件」の探究 (文春新書)

物心ついたころに教科書問題などで新聞紙上を賑わしていたことから、日本はどうもひどいことを中国にしたらしい、と心に植えつけられていました。かつて、勤務先で留学生から南京出身ですといわれ、思わず謝辞を述べたりしたものの、どうも史実として把握しているわけではないことを感じながら、月日が流れていました。ようやく、最低限の知識だけでも得ようと身近にあった本書を手に取ったのは、去る夏に南京留学経験者と話したことがきっかけです。
1937年12月に南京を占領した日本軍が、三ヶ月にわたって虐殺を繰り広げ、その数は最大30万人と言われる一方で、南京と東京での軍事裁判の判決をよしとはせず、虐殺の不在を主張する人々もいるそうです。本書では、著者が一番現実に近いと思われる説を文献から導き出す作業が紹介され、社会学者ルイス・スマイスが1938年3月から6月にかけて、南京市内と郊外六県を調査した結果、埋葬報告からの推定として非戦闘員の被殺害者12,000人と出した数字を支持しているようです。なかなか微妙な問題なので、興味のある方はお目通しください。
もちろん一冊読んだくらいで自分のうちに消化されたとも思えないのですが、これは一種の情報戦だったのではないか、と感じました。先の知り合いは、南京に留学したときに日本人が中国人を殺している図説つきの現地の教科書を見て、居たたまれない気持ちになったと言っており、これもその名残なのでしょうか。非常時における人間の心理はどのように動くものか、自分でもわからないものですし、現在進行中の数ある問題に対しても、できるだけ命の応酬なく解決できる方策を講じていってもらいたいものだと思います。