私の履歴書---保守政権の担い手

日経新聞に今も続く「私の履歴書」欄に掲載された、岸信介河野一郎福田赳夫後藤田正晴田中角栄中曽根康弘の分を集めた一冊。特に面白かったのは、岸と後藤田。
戦中戦後の大物政治家 岸の子供のころの話は、明治の暮らしぶりなど民俗的な描写が興味深く、失われた日本の一風景を知る思いです。内閣総理大臣になる前のバリバリ現役時代に書かれたものだけに、当然ながら後半生について何の記述もないのが残念。確か実家に読まないままに彼の伝記があったはず、今度帰ったら探してみましょう。
解説の御厨隆も指摘しているように、並み居る各氏の中で後藤田だけが、敗戦の惨めさについて何度も言及しているのが興味深い。今の若い人の中には、信じられないことに敗戦したことを知らない人がいると聞いたことがありますが、日本の現在に連なる重要な事実はもっと認識されるべきでしょう。軍医として従軍し昭和の終わりまで生き延びた私の祖父も、戦争について語っていた覚えがありません。敗戦についてしっかりと言葉にした政治家という部分で、後藤田正晴は一線を画しているように思います。
蛇足ながら、現首相の父上にあたる福田赳夫の、戦前のエリート教育を受け、官僚中の官僚たる大蔵省に在籍していた時代の少しばかり俗世離れした記述を読んでいると、田中角栄の凄さを改めて思い知らされます。その田中と同い年だったとは意外な中曽根にも実は関心があるのですが、それはまたいつか。(以上敬称略)