二つの祖国

二つの祖国〈上〉 (新潮文庫)

二つの祖国〈上〉 (新潮文庫)

二つの祖国〈中〉 (新潮文庫)

二つの祖国〈中〉 (新潮文庫)

二つの祖国〈下〉 (新潮文庫)

二つの祖国〈下〉 (新潮文庫)

読むのが恐ろしいけれどもページをめくらずにいられず、最後まで悲劇的な展開に暗澹とした思いにさせられました。映画’Babel’でもそうだったように、舞台の一つであるロサンゼルスに暮らしていると、登場する地名などの現在を思い浮かべて文字を追うだけに身に迫るものがありますし、戦中をこちらで過ごした実体験を持つ、またはそうであろう方々のお顔を思い浮かべながら読み進めると、ここに書かれている事柄がより現実感を持つのです。第二次世界大戦中にドイツ人もイタリア人もされなかった日系人強制収容所への入所や迫害は日本人(黄色人種)であるというだけではなく、本土ではないにしてもアメリカ国土に攻撃を仕掛けた初めての国として、忌み嫌われたのではないかということも感じました。
著者は日系人への迫害だけにとどまらず、多くの移民たちの出身地の一つである広島に原爆を落とされたことを物語に取り入れることによって、より悲惨な状況を浮き彫りにします。広島もまた当時祖母たちが川向に住んでおり、その状況を問わず語りに聞かされた町でもあります。さらに、主人公のケーンがモニターを務めた東京裁判の経緯はどこまでが史実に基づいているのか、浅学の私にはわかりませんがもう少し折を見て知っていきたいと思います。
タイトルが表すとおり『二つの祖国』を持つ者の戦争状態における苦悩。そして人間の愚かさをこれでもかと告発するような著者の口調はときに饒舌すぎるようにも思えますが、アメリカに住む日本人として読んでおくべき一冊であるでしょう。貸してくださったYさんに感謝いたします。